9月 5th, 2024

慢性疲労症候群で再審査請求を経て、統合失調症で障害厚生年金3級を取得した事例

2024/09/05 障害年金総合

更新日時 2024/9/5

1.経緯

その方(女性)は平成23年微熱、咳が止まらない、寝汗の症状があり、Aクリニックにかかりました。
「急性気管支炎」とされ、その後も微熱、頭痛、倦怠感、関節痛が続くようになりました。
平成25年~28年、同様の症状が続き、乳がん、精神病、子宮がんかもしれないと思い、Aクリニック、B内科、C耳鼻科、D心療内科を受診しましたが、納得のいく診断はされませんでした。
その後、リウマチを疑い、E病院を受診し、関節痛を訴えても、「心の持ちようの問題」などと理不尽なことを言われました。
平成29年、微熱、倦怠感、関節痛に加え、激しい腹痛があり、F病院にかかりましたが、異常なしとされ、痛み止めの薬が処方されただけで、症状はよくなりませんでした。
F病院では、異常なしという検査結果を聞くまで1カ月かかり、さらに他の医療機関を紹介してくれることもありませんでした。
やむをえず、自力でネットで自分の症状にあてはまる病気を探し、慢性疲労症候群という傷病が一番近いと思い、Gクリニックに慢性疲労症候群の専門医がおられることも調べ、平成29年2月Gクリニックを受診しました。
そこでは、本人の予想通り慢性疲労症候群と診断されました。
その頃は、家事や買物もできず、日中殆ど寝たきりとなっていました。

 

2.慢性疲労症候群で、裁定請求、審査請求、再審査請求、統合失調症で裁定請求
平成29年3月、慢性疲労症候群で障害年金を申請したいので、お手伝いいただきたいと、本人より当事務所に相談があり、次のように進めました。

■慢性疲労症候群、線維筋痛症の裁定請求
平成23年微熱、咳が止まらない、寝汗の症状があり、受診した、Aクリニックが初診と思われ、Aクリニックで受診状況等証明書を作成いただき、Gクリニックで診断書を作成いただきました。
診断書の傷病名は「慢性疲労症候群、線維筋痛症」でした。
※ 慢性疲労症候群とは

※ 慢性疲労症候群 認定事例(日本年金機構)

※ 線維筋痛症とは

※ 線維筋痛症  認定事例(日本年金機構)

診断書の「傷病の原因又は誘因」欄は、Aクリニックの「急性気管支炎」、「傷病の発生年月日」欄は、Aクリニックを受診した「平成23年頃」、「現在までの治療の内容、期間、経過」欄には、AクリニックからGクリニックまでの経過が細かく記載されていました。
Aクリニックの「急性気管支炎」と「慢性疲労症候群、線維筋痛症」の間に相当因果関係があるかどうかがポイントとなるため、「傷病の原因又は誘因」欄は、Aクリニックの「急性気管支炎」と記載されたことで、初診日はAクリニック受診の平成23年に間違いないと確信しました。
病歴就労状況等申立書に、AクリニックからGクリニックまでの経過を詳しく記述し、平成29年7月裁定請求したところ、初診日は平成23年Aクリニック受診日ではないとのことで、平成29年11月、不支給結果の通知が届きました。
障害状態認定表を開示請求したところ、認定表には、「急性気管支炎」と「慢性疲労症候群」、「線維筋痛症」には、全て相当因果関係は無いと記載がありました。
初診日は、慢性疲労症候群、線維筋痛症と確定診断された、Gクリニック受診日であるとのことでした。

 

■慢性疲労症候群、線維筋痛症の審査請求

納得がいかないため、審査請求をすることにしました。
Aクリニック、B内科のカルテ開示請求を行い、平成23年以降、微熱、頭痛、倦怠感、関節痛、精神神経症状、その他の症状の経過を時系列にまとめ、カルテコピーとともに、時系列表を審査請求書に添付しました。
主な主張は次の2点です。
・Gクリニックの診断書 「傷病の原因又は誘因」欄は、Aクリニックの「急性気管支炎」、「傷病の発生年月日」欄は、Aクリニックを受診した、「平成23年頃」と記載されている。
・Aクリニック、B内科のカルテには、慢性疲労症候群の症状(微熱、頭痛、関節痛、精神神経症状)の記載がある。
したがって、平成23年受診した、Aクリニックが初診であると訴えました。
審査請求書の結論は、次のように結びました。
「回顧的にみれば、明らかに慢性疲労症候群の症状があるにもかかわらず、どの病院でも納得できる診断がないため、請求人自ら乳がん、精神病、リウマチ、子宮がんを疑い、病院を駆けずり回ったが、正しい病名を診断してくれる病院は無かった。最終的には請求人自ら「慢性疲労症候群」という病気の症状が自分の症状に当てはまることを探し当て、慢性疲労症候群の専門医を受診するに至った。(病歴就労状況等申立書より)
多くの医師であっても慢性疲労症候群、線維筋痛症といった確定診断がなされにくい難病において、確定診断前の症状の考慮なく、初めて確定診断された病院受診日を単純に初診日と判断するのは、失当である。」
なお、日本年金機構のホームページには、初診日の1例として、次のような説明がされています。
「障害の原因となった傷病の前に相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が対象傷病の初診日」

※ 出典 障害年金講座 「初診日とは」 日本年金機構

平成30年1月、厚生局に審査請求を行いましたが、同年6月、棄却通知が届きました。

 

■慢性疲労症候群、線維筋痛症の再審査請求

本人、私共に、納得がいかないため、再審査請求をすることにしました。
審査請求書での主張と共に、次の3点の主張を追加しました。
・日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」内の初診日の定義から、主張する初診日に間違いはない。
 ※ 日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」一般的事項 初診日

・医学書院 医学大辞典 第2版の慢性疲労症候群の説明から、平成23年~平成29年の症状は、慢性疲労症候群の特徴に間違いない。
・リウマチ情報センターのホームページ内、「線維筋痛症診療ガイドライン 2017」内の線維筋痛症の説明から、平成23年~平成29年の症状は、線維筋痛症の特徴に間違いない。
したがって、平成23年受診した、Aクリニックが初診であると訴えました。
再審査請求書の結論は、次のように結びました。 
「請求者本人が6か所の医療機関を経て、自覚症状から慢性疲労症候群を疑い、専門医がいるGクリニックを探し当て、受診に至ったのは、病歴・就労状況等申立書に記載した通りである。
請求者がそのような医療機関を見つけることが出来なければ、初診日がさらに未来にずれこんでいく不合理はあってはならないことであり、審査会におきましては大義ある決定を下されんことを切に望みます。」
平成30年7月、社会保険審査会に再審査請求を行いましたが、平成31年2月、棄却通知が届きました。

 

■統合失調症の裁定請求 障害厚生年金3級決定

平成30年1月審査請求後の平成30年4月頃、症状が変化してきました。
従来の症状に加え、幻聴、幻覚、妄想の精神症状が強く出るようになりました。
具体的には、次のような症状が出始めました。
・多くの人に話しかけられる幻聴
・人の顔が浮かんでいる幻覚
・自宅に宇宙人が襲いに来るという妄想
そのため、D心療内科を5年ぶりに再受診したところ、「統合失調症」と診断されました。
(平成25年、最初にD心療内科を受診した際は、「軽いうつ病」と診断されました。)
令和2年3月、ご主人より新たに裁定請求の依頼がありました。
平成25年、最初にD心療内科を受診した日付を初診日とし、D心療内科で「統合失調症」の診断書を作成いただき、令和2年4月、裁定請求をし、無事同年11月障害厚生年金3級が決定しました。

 

■まとめ

平成29年3月、当事務所に相談があった慢性疲労症候群、線維筋痛症では、残念ながら裁定請求、審査請求、再審査請求すべて不支給、棄却でしたが、令和2年11月統合失調症で何とか障害厚生年金3級受給となりました。
日本年金機構では、慢性疲労症候群、線維筋痛症の複数ある症状のうち、「最も代表的な」症状が受診状況等証明書に記載されていなければ、初診と認めない傾向にあります。
「最も代表的な」症状があっても、患者が他の強く現れた症状を訴え、「最も代表的な」症状を医師に訴えなければ、カルテに残らず、受診状況等証明書にも記載されないことになります。
そのようなケースでは、初診と認められないことになります。
一方、精神障害については、今回のケースのように、初診日は「軽いうつ病」でも、ほぼ間違いなく「統合失調症」の初診日とされます。
したがって、いつの受診が初診日かの判断は非常に難しい場合があり、判断に迷われる場合は、経験豊富な社会保険労務士に相談されることをお勧めします、