2016年9月

障害年金不服申立て公開審理傍聴

先日、1年ぶりに障害年金不服申立て公開審理の傍聴をしてきました。
場所は厚生労働省社会保険審査室です。

年金の裁定や受給権の消滅など、厚生労働大臣の行った処分に不服があるときは、
不服申立てができます。
障害年金についての不服申立ては二審制となっており、一審目が審査請求、ニ審目が
再審査請求です。
最近障害年金に関わる法改正などがあり、審理の場での社会保険審査会、
保険者(行政)の発言から、その関係の考慮状況を確認する目的で、傍聴しました。

当日は件数は40件でした。
その中で、4件については、全国各地の社会保険労務士が代理人として意見陳述を
していました。
6件については、本人又はご家族が意見陳述をしていました。
他は請求者欠席のまま、審理されました。
傍聴者には、資料の配布、申立て内容の詳細説明はありません。
したがって、審査員、保険者、請求者(代理人)、参与から何も発言が無いと
傍聴者には、審理内容は全くわかりません。
しかし、何らかの発言があると、争点の一部を理解することができました。

当日は、下記のような説明、意見、質問/回答、陳述などがありました。

1.今年H28.6月1日受付以降の糖尿病新認定基準に関すること。
(保険者説明)
2.糖尿病に関して、HbA1cの測定方法の変更。
(日本独自のJDS値から国際値に相当するNGSP値への変更)
「診断書の値は一体どちらの値か?」請求者に質問。(審査会質問)
「JDS値。わざわざどちらの値か説明書きは不要と年金事務所で教示が
あった。」(請求人回答)
3.「糖尿病旧認定基準 血糖コントロール不良の基準:
『HbA1cが8.0%以上及び空腹時血糖値が140mg/dl以上』の
『及び』は、『かつ』か『又は』か?」(参与質問)
「かつ」が正しいが、「又は」と勘違いして不服申立したケースあり。
4.精神診断書
日常生活能力の判定と日常生活の程度の乖離。(複数あり。)
どちらを信用すべきかという問題。
5.解離性運動障害の診断書の選択の問題。(複数あり。)
「精神診断書を選択したが、肢体診断書が必要だったか?
年金事務所などの受付では、そのようなアドバイスをしないのか?」
(参与質問)
6.初診日の医証が得られず、薬局の領収証などで代用し、初診日が確認できない
とされたケースあり。
7.初診日が健康診断日のケース
「H27.10.1以降原則健診日は初診日として扱わないことになったが?」
(参与質問)
「条件が揃えば、本人申立で健診日を初診日に採用することはある。」
(保険者回答)
8.正社員で勤務実績あったため、精神3級が認められなかったケースあり。
実態:業務内容は本来より軽度の作業を与えられ、休みがち。(代理人陳述)
9.初診日の1年半後障害認定日において、急性期、原因不明で治療開始していない、
症状固定していない場合。
⇒「その後の追加診断書が必要、この後、追加診断書が提出されれば、審査
します。」(保険者医師)
10.9のケースで、追加診断書をつけて再裁定請求でも可。
「一事不再理の原則が適用され、却下されるのではないか?」
(請求代理人質問)
「追加診断書を付ければ、一事不再理の原則に該当しない。」(保険者回答)

下記、私の感想です。
ア.最近の法改正の関係(糖尿病認定基準、初診日の取り扱い)に関する説明、
意見はやはりありました。
イ.初診日の医証が無い場合は、念には念を入れ、なるべく多くの補助資料を準備
しないと、すんなりとはいかないと感じました。
ウ.精神疾患に関しては、やはり働いていると認められにくく、覆すには余程就労に
おける配慮がなされた実績の資料がないと難しいと感じました。
エ.障害認定日の診断書のみでは認定が困難な事例があり、参考になりました。
オ.裁定請求後提出の追加診断書の扱いは行政も統一的な対応がされていない部分
ですが、参考になりました。
カ.再裁定請求に関して、一事不再理の原則はありますが、やりようによっては
対応できることがわかり、参考になりました。

一般の方は、裁定請求時、上記1~10のような事項を考慮して、進めることは
困難だと思います。
その前に、殆どの方は上記のような事項があることすらご存知でないと思います。
障害年金の裁定請求等をしようと考えておられる方は是非、障害年金に詳しい
社会保険労務士にご相談していただきたいと思います。


糖尿病:障害厚生年金3級(事後重症)が決定(岐阜、名古屋周辺域の実績)

2016/09/16 重4

岐阜、名古屋周辺域にお住いの方の障害厚生年金3級(事後重症)が支給決定した
実績です。
その方(男性)は、営業職で接待も多く、ゴルフもよくラウンドされ、活発にお仕事、
趣味をされていました。
30歳の頃、会社の健康診断で糖尿病に関する異常値が出て、徐々に喉が渇く、疲れ
やすい、等の自覚症状が現われ、数年後病院にかかり、糖尿病と診断されました。
徐々に悪化し、40歳の頃インスリン治療を開始しました。
その後も、50歳代にわたり、悪化し、インスリン注射回数も増えるように
なりました。
現在も仕事中、低血糖になり仕事に集中できなくなったり、低血糖対策でブドウ糖を
吸収し高血糖になりすぎ、眠くなったりして、しばしば仕事に影響が出ていました。

私に相談があり、喫茶店でヒアリングしました。
初診日が25年程前とのことで、本人もしっかり記憶されておらず、不安がよぎり
ました。
初診日が証明できないと、現在どれほど重篤な症状があっても、原則障害年金は支給
されないからです。
(後述しますが、昨年法律の改正があり、若干緩和されました。)
かろうじて初診にかかった病院は覚えていらっしゃったため、その病院に問い合わせ
しましたが、カルテなどすべて廃棄されており、証明の手がかりになりそうなものは
何一つ残っていませんでした。
また、その病院にかかる前に、会社の健康診断で糖尿病に関する異常値が出ましたが、
健康診断の医療機関に問い合わせしても、やはりすべて廃棄されており、同様でした。
その後、2番目に行った病院にも問い合わせをしましたが、やはり同様でした。
3番目に行った病院に問い合わせしたところ、20年程前の当時のカルテが残って
いるとの回答を得ました。
藁にも縋る気持ちで、カルテ開示請求をしたところ、カルテに1番目にかかった時期、
病院名の記載がありました。
その方が3番目の病院にかかったときの問診票も残っていました。
そのカルテ、問診票のコピーで初診証明は、大丈夫かと思いましたが、念のため
さらに健康診断の結果を記憶していた、当時の会社の同僚が2名いらっしゃって、
第三者証明をお願いしました。
当時、仲間内で健康診断の結果を見せあいし、その方の糖尿の数値が話題に上って
いたそうです。
初診証明としてはそれらの資料を添付し、障害年金請求処理をしました。

先日その方より障害厚生年金3級(事後重症)の支給決定があったと連絡があり、
大変喜んでいらっしゃいました。
糖尿病は長期にわたり徐々に悪化するのが一般的であり、20年~30年前の初診
病院のカルテが廃棄されている、病院自体が廃院となっている、などで、初診証明が
難しいことが多いです。
「厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令」が、平成27年10月1日から
施行されました。それに関連して厚生労働省より、平成27年9月28日付で、この
改正に係る事務の取扱いについての通知が出されました。
この通知では、今回のような場合に初診証明のためにどのような資料が必要になる
のかを様々なケース毎に細かく定めています。
一般の方は、その法改正の内容を正確に把握し、自分のケースにあてはめて検討し、
間違いなく対応することは、困難だと思います。
今回のように、初診時のカルテが存在しないようなケースでは、やはり我々
障害年金に詳しい社会保険労務士にご相談いただくのがベストの選択だと思います。