2014年10月

制度間の矛盾

障害年金請求の難しい要因のひとつに、制度間の矛盾があります。

障害年金の請求時、初診日の証明が必須となります。
初診日の証明が必要な理由は、
1.請求先制度の確定(国民年金、厚生年金、共済年金)
2.保険料納付要件を満たすかどうかの判定
3.過去に遡って請求(遡及請求)できるかの判定
の、3点に必要な情報だからです。

緩やかに進行した病気の場合、初診日を証明するのが大変な場合が多いです。
若い頃発症し、当初は軽度であった、又は障害年金の制度を知らなかった、
などで、30年程度経過して、初めて障害年金を請求するケースがあります。
そのような場合、30年前の初診証明を病院にしてもらう必要がありますが、
既に診療録(カルテ)が廃棄されており、証明できないと断られる場合が
あります。
医師法では、診療録(カルテ)の保存義務は5年となっているためです。
障害年金の制度と医師法の制度の間の矛盾が、このようなケースの請求手続きを
難しくしています。

診療録(カルテ)が廃棄されている場合は、一般に証明を得るためにかなり
大変な調査、手続きが必要になります。


伝言ゲーム

障害年金請求の難しい要因のひとつに、書類審査であることがあります。

請求書類の中で最も重要な書類は、医師が作成する診断書です。
しかし、医師は障害者の日常生活を自分の目で見ているわけではありません。
請求者が、現時点の日常生活活動能力及び労働能力を医師に伝え、医師が診断書に
記載し、その書類を行政が見て、障害の認定を行います。

請求者本人が医師と信頼関係が構築されていない場合、請求者本人の実情が正確に
医師に伝わりません。
また、(一般には)障害年金に詳しくない医師が診断書を書く場合、記載欄に
書くべき的確な表現となっていないことが少なくありません。

かくして、現時点の日常生活活動能力及び労働能力は、請求者本人⇒医師⇒行政
とあたかも伝言ゲームのように歪んで伝わります。
そのように書かれた書類を見て、行政は障害認定の判断を行います。
行政は、日常生活にいくら辛い状況があったとしても、記載された以上の事を読み
取ることはできません。

実際は同程度の障害であっても、認定に差が生じてしまうのは、以上のようなことが
要因のひとつになっています。


グレーゾーン

障害(基礎・厚生)年金の請求は難しいと言われています。
また、障害基礎年金に於いては、都道府県によって支給/不支給の認定に差があると
言われています。

障害年金請求の難しい要因のひとつに、老齢年金、遺族年金には存在しない、
「グレーゾーン」の存在があります。
障害認定に当っての基本的事項として、障害等級毎に次のように定められています。

1級:身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を
弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。
2級:身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が
著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする
程度のものとする。
3級:労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要と
する程度のものとする。

障害年金は、上記のような労働能力や生活能力の低下具合に応じて、生活の安定が
損なわれることがないように支給される素晴らしい制度です。

反面、上記のような抽象的な表現から、労働能力や生活能力の低下具合の明確な線引き
をするのは困難であり、「グレーゾーン」が存在してしまうことになります。
(具体的な認定基準は、基本的事項をベースに詳細に定められていますが、やはり
完全な線引きは困難です。)

したがって、「グレーゾーン」の中にいる場合には、請求書類に労働能力や生活能力の
低下状況をいかに盛り込むかによって、同程度の障害であっても認定に差が生じること
になります。